欲望学ノート3 ハイデガー、人間、この低いもの

ヒュギヌスとは、古代ローマが共和制から帝政に移るころに活躍した著述家である。

さて、ハイデガーが引用する『ヒュギヌスの寓話』のなかの「クーラ寓話」の末尾で、サトゥルヌス(時間)は、次のような裁決を下した。「精神をそなえたその造形物は、フムス(humus 土)から造られているのだから、ホモ(homo 人間)と名づけるがよい。」

フムス( humus )とは、「土」を意味するラテン語であるが、このフムス( humus )はさらに、「低いもの、下劣なもの」を意味する。

したがって、ヒュギヌスの「クーラ寓話」における「ホモ」というラテン語は、もちろん「人間」を意味するのだが、しかし「低いもの、下劣なもの」を意味するフムス( humus )に由来しているのだから、この「ホモ」に、すなわち「人間」に、「低い」という響きを聞き取るべきだろう。

「クーラ寓話」をドイツ語に翻訳したブルダハは、このホモ( homo )というラテン語を、「人間」を意味するドイツ語( Mensch メンシュ )に転換せず、そのまま用いた。だがハイデガーは、この「ホモ homo 」を、直ちにドイツ語の 「Mensch メンシュ」に転換した。

「ホモ homo 」も、「Menschメンシュ」も、男女を問わず「人間」なるものを意味する。だが、ドイツ語 「Menschメンシュ」には「低い」という響きはない。

皮肉なことに、私は、ハイデガーが引用した「クーラ寓話」に感謝しなければならない。「ホモ」すなわち「人間」は「低いもの」である、ということを再認識させてくれたからである。

「人間」は「低いもの」である。私はそう思う。(これについては、いずれ稿をあらためて論じよう。)
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財津理

Author:財津理
思想研究家
法政大学教授
連絡先:za10@hosei.ac.jp

主な翻訳(共訳を含む)
ドゥルーズ『差異と反復』(河出書房新社)
ドゥルーズ『経験論と主体性』(河出書房新社)
ドゥルーズ/ガタリ『哲学と何か』(河出書房新社)
ドゥルーズ『シネマ1*運動イメージ』(法政大学出版局)
モニク・ダヴィド=メナール『ドゥルーズと精神分析』(河出書房新社)
メルキオール『現代フランス思想とは何か』(河出書房新社)
メルキオール『フーコー 全体像と批判』(河出書房新社)
オニール『言語・身体・社会』(新曜社)

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