『差異と反復』のわかりやすい読解2

最初に訳文を示し、次にその訳文が「言おうとしていること」を聞き取ろうと努力する。つまり、このドゥルーズの文章(訳文)は何を言っているのだろうかと考え、理解しようと務める。

今回のブログでは、訳文のみを公開する。なお、今年の5月にこのブログで発表した『差異と反復』第二章の訳文を、独訳を参照しながら、さらに改訳し、できるかぎりふつうの日本語の文章に転換した。次回に、この訳文の読解や考察を書く。

〔〕内の語句は、訳者の補い。
〈〉は、文意を取りやすくするために訳者が加えた記号。
イタリック体の原文は、太字の日本語に転換する。
第二章のなかの「小みだし」については、すでに訳書の「凡例」に示した方針を踏襲する。



訳文(原書p96の本文の1行目から20行目、ハードカバー版訳書119頁、文庫版「上」197~198頁)
「 第二章 それ自身へ向う反復

反復、すなわち、何かが変化するということ

反復する〔物理的な〕事物のなかでは、反復によって何も変化しないが、反復を観照する精神のなかでは、反復によって何かが変化する――ヒュームのこの有名な主張は、わたしたちを、或るひとつの問題の核心に連れていく。それぞれの現前化〔たとえば現前するそれぞれの音〕は互いに完全に独立しているという意味が、権利上、〔物理的な〕反復に含まれているのだから、反復することによって、どうして、反復する事例や要素のなかで何かが変化するだろうか。反復における不連続性と瞬間性の規則は、次のように定式的に表現される――ひとつのものが消えなければ、もうひとつのものは現れない。例を挙げるなら、瞬間的精神としての〈物質の状態〉である。反復は出来あがるそばから壊れてゆくのだから、じっさい、どうしてひとは、「二番目」、「三番目」、また「それは同じだ」と言うことができようか。反復は即自をもっていない〔訳者のコメント:フランス語の独立した文章は、ふつう大文字で始まるが、この文章の原文は小文字で始まっている。たんなる誤植か、あるいは原文の前に何らかの抜けがあったのか?〕。それに対して、反復を観照する精神のなかでは、反復によって何かが変化する。そのようなことが、モディフィカシオンの本質である〔訳者のコメント:モディフィカシオン=modification。このフランス語は、スピノザ『エチカ』のラテン語モディフィカティオ=modificatioに対応する。岩波文庫版では、「様態的変状」と訳されている。このスピノザの言葉については、もちろんドゥルーズが『スピノザと表現の問題』のなかで論じている。さらに、いわゆる「ヌーヴォー・ロマン」の作家、ミシェル・ビュトールの作品の題名でもある。『心変わり』と訳されている。『差異と反復』ハードカバー版435頁、 文庫版「下」325頁参照〕。ヒュームは、たとえとして、〈AB、AB、AB、A・・〉というタイプの反復、つまり事例の反復を取り上げている。どの事例も、すなわち、どの客観的なシークエンス〈AB〉も、ほかの〈AB〉から独立している。反復によっては(ただし正確には、わたしたちはまだ反復を語ることはできないのだが)、事物のなかでは、つまり〈AB〉という〈物の状態〉のなかでは、何も変化しない。それに対して、観照する精神のなかでは、或るひとつの変化が生じる。すなわち、或るひとつの差異が、何か新たなものが、精神のなかで生じるのである。〔AB、AB、ABのようにして、ABが連続的に現れた後に〕Aが出現すると〔それだけで〕、いまや私はBの出現を予期する。そうしたことがまさに、反復の対自なのであろうか。すなわち、必ずやそれ〔反復〕の構成に含まれざるをえない或る根源的な主観性としての、反復の対自なのであろうか。反復のパラドックスとは、ひとが反復を語ることができるためには、反復を観照する精神のなかにその反復が導入する差異つまり変化によるほかはない、ということではないだろうか。すなわち、精神が反復から取り出すところの或るひとつの差異によるほかはない、ということではないだろうか。」
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プロフィール

財津理

Author:財津理
思想研究家
法政大学教授
連絡先:za10@hosei.ac.jp

主な翻訳(共訳を含む)
ドゥルーズ『差異と反復』(河出書房新社)
ドゥルーズ『経験論と主体性』(河出書房新社)
ドゥルーズ/ガタリ『哲学と何か』(河出書房新社)
ドゥルーズ『シネマ1*運動イメージ』(法政大学出版局)
モニク・ダヴィド=メナール『ドゥルーズと精神分析』(河出書房新社)
メルキオール『現代フランス思想とは何か』(河出書房新社)
メルキオール『フーコー 全体像と批判』(河出書房新社)
オニール『言語・身体・社会』(新曜社)

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