fc2ブログ

哲学と「よい社会」(続き1)

4月下旬に、突然、左腕の指先に力が入らなくなり、てのひらの三分の一ぐらいが麻痺した。病院に行ったところ、MRIで脳を検査され、左腕の筋電図をとられた。脳にはまったく異常が認められないという結果が出たが、筋電図では少し神経の反応の鈍さが出たようだ。診察したフランス人の医者は、まあ大丈夫だろうと言ってくれた。

学生時代に柔道や空手の稽古をしていたので、筋肉の回復のさせ方は知っている。ようやく左手の指に力が戻ってきたので、ブログの執筆に復帰したい。

かつてドゥルーズが授業をしていたパリ第8大学で、昨日(17日)、「ユートピアは時代遅れか? ミゲル・アバンスールを称えて」と題する講演会が行われ、私にも案内が来ていたので出席した。開始前の9時頃に大学内の会場に着くと、壁際の机にクロワッサンが並べられており、コーヒーやジュースが飲めるようになっていた。

9時30分から発表が始まり、午前中にアバンスール自身の講演があった。題名は「ユートピア的回心( La conversion utopique )」。その講演の前に、この会の責任者であるパリ8教授のヴェルメラン氏から、アバンスールに紹介していただいた。

昼食会にも招かれた。長いテーブルには、すでにワインと料理が並べられてあった。着席すると、午後の講演者であるルネ・シェレールがやってきた。シェレールにも紹介していただいた。

シェレールは日本でも有名であると言えるだろうが、アバンスールはあまり知られていないようだ。日本人によるアバンスールの本の書評がインターネットで公開されている(「今さらなぜユートピアか?」)。才気走っているが、それだけ意地の悪さも出ている書評である。

私はこの二人の有名人に紹介されたことを自慢したいわけではない。ドゥルーズと交際があった人々を訪ねて、その思い出を聞き取ること、これが私のフランス滞在のひとつの目的である。意外に早く、ドゥルーズと深い関わりのあったアバンスールとシェレールに知り合えたことは幸いであった。彼らはすでに高齢であり、シェレールは間もなく90歳になるはずだ。今のうちに、ドゥルーズの様々な思い出を記録しておかなければならない。かなり多くの人たちから聞き取りをおこなうつもりでいるが、アラン・バディウが最大の関門になるだろう。

そのほかに、パリ8の学内にある「ドゥルーズ・アルシヴ」の作業の進捗状況を調査する予定だ。「ドゥルーズ・アルシヴ」では、現在、パリ8でのドゥルーズの講義の文字起こしが遂行されている。

ともかく、昨日「ユートピア」に関して様々な話が聞けたことはよかった。日本から船便で文献が到着するまで、哲学と「よい社会」について書いていくつもりだが、「ユートピア」という或る意味で危険な「よい社会」を考慮に入れる必要に気がついたからである。
関連記事
検索フォーム
プロフィール

財津理

Author:財津理
思想研究家
法政大学名誉教授

連絡先:osamuzaitsu@gmail.com

主な翻訳(共訳を含む)
ドゥルーズ『差異と反復』(河出書房新社)
ドゥルーズ『経験論と主体性』(河出書房新社)
ドゥルーズ/ガタリ『哲学と何か』(河出書房新社)
ドゥルーズ『シネマ1*運動イメージ』(法政大学出版局)
モニク・ダヴィド=メナール『ドゥルーズと精神分析』(河出書房新社)
メルキオール『現代フランス思想とは何か』(河出書房新社)
メルキオール『フーコー 全体像と批判』(河出書房新社)
オニール『言語・身体・社会』(新曜社)

リンク
カレンダー
02 | 2024/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
カテゴリ
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

RSSリンクの表示
月別アーカイブ
カウンター