集団的自衛権と憲法9条:第3回

日本の無条件降伏を要求するポツダム宣言は、言うまでもなく、いわゆるカイロ宣言を踏襲している、そこでまず、カイロ宣言における日本観と対日スタンスの一部を見ておこう。
ところで、「カイロ宣言Cairo Declaration」とはポツダム宣言第8項に出てくる名称であり、国会図書館が公開している文書では、「カイロ声明 Cairo Communiqué」となっている。ルーズベルト(ロウズヴェルト)大統領時代のホワイトハウス報道官であったスティーヴン・アーリーの名前で、この声明は1943年12月1日にオートマティックにリリースされるべき(for automatic release)ものであり、それまでは絶対に機密扱いしなければならないとされている。いわゆるカイロ宣言の有効性を否定する議論もあるが、以上のホワイトハウス報道官スティーヴン・アーリーの指示からすれば、カイロ宣言が連合国にとって拘束力がある文書であることは明白である。また、ポツダム宣言第8項がカイロ宣言を継承する旨を告げているのだから、カイロ宣言の無効性を正当化することはできない。もちろん、カイロ宣言は、当時の連合国にとって「約束」としての拘束力をもつにすぎないのであって、現在のすべての国家を拘束するものではない。カイロ宣言もポツダム宣言も、領土問題に関しては、いわゆる「大国」の利権を確保するための意思表示である。

カイロ宣言(声明)のいくつかの文章を訳してみよう。

第2文「三大同盟国は、それらにとっての野蛮な敵国たち(their brutal enemies)に対し、海、陸そして空から仮借なき圧力を加える決意を表明した。」要するに、日本は三大同盟国(アメリカ、イギリス、中国)にとって「野蛮な敵国」とみなされ、「仮借なき圧力(攻撃)が加えられたのである。三大同盟国から、敵国とみなされれば、徹底的に攻撃されるということだ。そしてアメリカのこのような行動は、現在まで切れ目なく継続している。

第4文「三大同盟国は、日本による侵略(aggression)を制止し罰する(punish)ために、この戦争をしているのである。」欧米がおこなう戦争によって日本は罰せられたのである。もちろん、欧米による侵略は罰せられなかった。換言するなら、カイロ宣言では、日本による侵略は罰せられるべき「犯罪」であり、欧米による侵略は罰せられるべきではない、つまり「犯罪」ではないということになる。周知のように、このような欧米のダブル・スタンダードに不満をもつ様々な勢力が声を大きくしている。

つぎにポツダム宣言のいくつかの文章を訳そう。

いわゆるポツダム宣言(Potzdam Proclamation)の詳しい名称は、「日本の降伏のための条項(Terms)を規定する宣言」である。条項と訳したTermsは、ポツダム宣言第五項からすれば「条件」と訳せるのだが、その第8項からすれば「条項」とも訳せる。宣言の全項目の内容からすれば、「条項」のほうが穏当であろう。

第三項の後半「抵抗するナチスに用いられたときの力は、全ドイツ国民の土地、産業そして生活方式を荒廃させたのだが、いま日本に集結しつつある力は、ドイツに用いられたその力に比べて計り知れないほど大きなものとなる。我々の決意が支える我々の軍事力の最大限の行使は、日本の軍隊の不可避的にして完全な破壊を意味し、また同じく必然的に日本本土の完全な破滅を意味するだろう。」
そして、ポツダム宣言が発せられてから一ヶ月も経過しないうちに、アメリカは広島と長崎に原爆を投下し、日本の多くの都市に無差別爆撃をおこなった。

第六項の一部「日本国民を欺き、世界征服(world conquest)に乗り出すという間違った行動をとらせた者たちの権力と影響力は永久に除去されなければならない。」欧米は、日本の軍国主義を「世界征服」をもくろむものとみなしていた。

第11項の一部「日本が戦争のために再軍備をすることができるようになるであろう産業を日本が維持することは許されない。」
「日本が戦争のために再軍備をする」というのは、カイロ宣言とポツダム宣言の各文章からすれば、「日本が侵略戦争のために再軍備をする」ということを意味するだろう。では、「自衛のための再軍備」なら許されるのだろうか。

第7項ではこう述べられている「そのような(平和、安全および正義の)新秩序が設立されるまでは、そして日本の戦争遂行能力が破壊されるということの説得力ある証拠が存在するまでは、同盟国によって指定されるべき日本領土の諸地点は、我々がここに提示している基本的な諸目的の達成を確保するために、占領されるべきである。」
こうしてみると、日本の再軍備の不許可に関しては、侵略戦争のみが考慮に入れられていて、自衛あるいは防衛の考えは抜けていたと見るべきだろう。連合国にとっては、日本の侵略戦争のための軍備を破壊することが急務であって、日本が自衛することまでは考える余裕がなかったのだろうと思われる。

次は、SWNCC諸文書、マッカーサー・ノート、いわゆるケーディス修正、芦田修正などを見ていこう。その後さらに、マッカーサーによって翻訳の発行が禁じられ、ジョン・ダワーの著作(邦訳題名『敗北を抱きしめて』)によって黙殺されたヘレン・ミアーズの『アメリカの鏡・日本』を少しばかり見て、憲法第9条改正に関する私の考えを提示したいと思っている。

付記:今回、初めてカイロ宣言、ポツダム宣言の一部を英語原文から訳してみて、いささか悲しみに包まれてしまった。
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プロフィール

財津理

Author:財津理
思想研究家
法政大学教授
連絡先:za10@hosei.ac.jp

主な翻訳(共訳を含む)
ドゥルーズ『差異と反復』(河出書房新社)
ドゥルーズ『経験論と主体性』(河出書房新社)
ドゥルーズ/ガタリ『哲学と何か』(河出書房新社)
ドゥルーズ『シネマ1*運動イメージ』(法政大学出版局)
モニク・ダヴィド=メナール『ドゥルーズと精神分析』(河出書房新社)
メルキオール『現代フランス思想とは何か』(河出書房新社)
メルキオール『フーコー 全体像と批判』(河出書房新社)
オニール『言語・身体・社会』(新曜社)

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